●場所:北海道 斜里郡斜里町 目梨郡羅臼町 知床半島
●期間:2017年7月5日(水)~7月13日(木)
●メンバー:Lウノ、スミ、サイトウ
7月6日(木)
ウトロ温泉バスターミナル~知床五湖~ルシャ川~タキノ川
夜行バスでの快適な夜を終え、知床五湖までバスで移動する。途中ヒグマがバスの前を横切る。デカい。こんなのに襲い掛かられたらひとたまりもない。この先出会わないようにと祈る。だがその祈りは無駄だったことを後に知る。
バスの終点から、車両が侵入できる最終地点までは、ヒッチハイクで進む。栃木からきた気のいいおっさんに乗せてもらった。ありがとうございました。
ここからが実質的なスタートだ。林道の終点、海岸との出合いまで歩く。天気は曇り時々雨。
海岸線と合流すると、まずエゾジカが迎えてくれた。そこら中にいる。バンビだ。優雅に走り回るその姿に、知床の大自然を実感する。
進んでいくと、早速ヒグマと遭遇。距離は50mくらいだろうか。熊スプレーに手をかけるも、熊はこちらに気付くとそそくさと山へ帰っていった。胸をなでおろす。この先、相泊に抜けるまでも十数頭も熊を見かけたが、どれも我々に気付くと同時に逃げてくれた。
少し進んだ番屋の横で休んでいると、漁師の方々に「今時珍しいなあ」と話しかけられ、コーラを頂いた。
この日は無人の番屋の横で泊まることに。ツエルトを張り、焚火を起こし釣りをする。釣果は2匹。名前はわからないし、小魚だが、味噌汁にして食べた。
7月7日(金)
タキノ川~カシュニの滝~カシュニの岩~レタラワタラ
この日も太陽は雲に隠れており、少々寒い。
名もなき岩峰がところどころにあり、そのひとつひとつがあたかも芸術作品のように趣深い形をしている。彫刻庭園を歩いているような気分になり、悦に浸った。
カシュニの滝の水量は思ったより少なかった。裏から巻いて通過。そして、いよいよ泳ぎのセクションに入る。
小さな岬を巻くと、断崖が出てきた。断崖の下は足がつかない水深である。これはへつれない。泳ぐしかない。7月とはいえ、北海道の北の端、しかも日は隠れている。全員顔を見合わせて、お互いを牽制しあう。「1番最初は行きたくない。」という気持ちで全員の気持ちは一致していた…。「ぎゃああ!」ウノ先輩の悲鳴がむなしく響く。彼は犠牲になったのだ。ウノ先輩の後に続いて筆者も海に入る。「ぎょええ!」冷たい。水温は15℃くらいだろうか。50mくらいの距離をザックを浮きにしてバタ足で泳ぐが、波に押し戻されてなかなか進まない。自然の前では人間は無力である。たった50mの泳ぎだったが、結構疲れた。
この先は、番屋もない本当に人がほとんど入らない地域に入っていく。エメラルドグリーン(今までで一番エメラルドグリーンだった)の入り江、巨岩、奇岩、ヒグマ、打ち寄せる荒々しい波、ヒグマ、ヒグマ、おそらくまだ誰も手を付けてないであろう美しい沢…。素晴らしいものを体感した。
この日は岩の浜に平地を作り、宿泊地とした。ようやく、日が出てきたので、ぐしょぐしょの装備を干す。カラカラに乾いた流木がそこら中に落ちていて、焚火をするには非常に有難い。そして、お楽しみの磯釣り。釣果は二匹。そのうちの一匹、名前はわからないが赤紫色の迷彩色のナマズのような形の魚が、見た目に反してとてつもなく美味しかった。明らかに筆者史上No1の魚であった(状況がよりおいしくさせた)。
星がきれいな夜だった。
7月8日(土)
レタラワタラ~アウンモイ~ポロモイ~メガネ岩~獅子岩~ウトロ漁港~知床岬~赤岩
青空が広がっている。干潮の浜を歩く。
海賊湾という入り組んだ入り江に到達する。ウニ(めちゃくちゃ美味しかった)やらヒトデやら魚やらがわらわらといる。最奥部には沢が流れ込んでいた。その緑と青と黒と花々の色合いが、太陽のふにゃふにゃした光に照らされて、なんとも神秘的な空間が完成していた。ここも泳いで渡った。
メガネ岩に着く。真ん中に丸い穴が開いている門のような巨岩である。それをくぐると、再び岩がたくさん出てきた。第二彫刻庭園と名付ける。モアイ像のような岩、獅子のような岩(獅子岩)など、想像が膨らんで楽しい。
第二彫刻庭園を通過するとウトロ漁港に出た。今は使われていない港だ。ここでは日本をヨットで周遊しているおっさんに出会う。犬も一緒だ。ビールを頂き、ひとしきり盛り上がった後、別れた。ここまでくれば、もう岬は目と鼻の先である。
岬は草原だった。心地よい風が吹いている。遠くに二頭の子どもを連れたヒグマがじゃれあっている。向かいの岩塔ではハクトウワシが巣から注意深くこちらを見ている。とても居心地が良い。しかし、今日はもう少し先まで進まなくてはいけない。さっさと記念撮影を済ませて、後ろ髪をひかれながらも、先へと進む。
有人の番屋を発見する。いい時間なので番屋の隣に泊まってもいいかを伺うと、なんと昆布の乾燥室(屋根、壁ありの清潔な小屋)を貸してくれるとのこと。しかも、風呂を貸してくださり、夕飯に肉も提供していただき、夕飯後は酒までご馳走していただいた。至れり尽くせりがここに極まっていた。
酒をのみ交わしながらお話を聞いていると、どうやら番屋を使用しての昆布漁を行うのは今年の夏で最後とのこと。そして、今年番屋を使った昆布漁を行っているのはこの番屋だけであるらしい。つまり、来年からは知床の昆布番屋はすべて無人になる。100年以上続いた知床の昆布番屋の歴史の終焉に図らずも立ち会ってしまった。奇妙なご縁に驚きながらも、無常を感じた。
7月9日(日)
赤岩~カブト岩~念仏岩~ペキンの鼻
番屋の方々は早朝からまめまめしく働いている。本当に頭が下がる。お礼を申し上げて、出発する。
良い天気である。人里にだんだん近づいているので、定置網などもちらほら出てくる。昆布番屋とは違い、定置網漁などの番屋はいくつか使われているものも残っているようだ。
エキノコックス(寄生虫)を媒介するキタキツネを頻繁に見かけるようになる。番屋の人に餌付けされてるケースもあるらしい。斎藤先輩にはキタキツネのずる賢さとリスクをよく聞いていたので見かけたらすぐに石を投げて追っ払う。見た目はかわいいが、我々にとっては食糧荒らしをする盗人(盗キツネ)でしかない。
この日は頑張れば目標の相泊まで到達することはできたが、急ぐ旅ではない。最後の知床ライフを楽しむことにする。
大漁だった。沢ではオショロコマという小さい淡水魚が入れ食い状態であり、10匹ほど釣ったところでやめた。磯釣りでは、水面に大量に魚が漂っており、針を投げると一瞬で食いつく。そして釣り上げる。楽勝すぎる。この魚にエゾイレグイと名付ける。4匹釣って、オショロコマ同様食べきれないのでやめた。そして、宴である。知床での最後の夜を存分に堪能した。
7月10日(月)
ペキンの鼻~メガネ岩~剣岩~観音岩~相泊~羅臼~ウトロ
キタキツネが大量発生している。今日中に人里に下りる予定なので、もうあまり警戒する必要はない。近づいてこない限りは、大人の対応(放置)をしておく。
ペキンの鼻以降は、比較的人が入っている地域であり、岩を巻くときも、残地ロープなどが整備されていた。旅の終わりは近い。
サイトウ先輩のお知り合いの番屋の方にアメちゃんを頂く。周辺にはキタキツネがやたらうろうろしていた。餌付けされてるに違いない。キツネにもアメちゃんを与えているのだろうか。
アメちゃん番屋を通過すると崩浜と呼ばれる5kmほどの浜に出る。この浜の向こうが相泊だ。
相泊では犬が海を泳ぎながら出迎えてくれた。ここら辺ではヒグマ対策に犬を飼うことが多い。地元の人には、珍しそうに見られた。最近ではウトロから歩いてくる人はほとんどいないらしい。
我々はそのまま相泊温泉へと向かう。相泊温泉は日本最東端の温泉という謳い文句の海岸にある野晒しの温泉である。満潮になると水没してしまうらしい。6日分の汚れを落とす。この温泉は敷板一枚を隔てて女湯と男湯が隣接しているため、むにゃむにゃしてしまい落ち着かなかった。
お風呂からあがり、ヒッチハイクでウトロまで移動する。
この日は、知床自然センターでビバークした。
計画を終えて
時にヒグマに怯え、時に巨岩奇岩に潜む芸術に心打たれ、時に泳ぎに凍えた。一日中歩き、夜は焚火で釣った魚を食べる。狩猟時代のような生活だった。しかし、はるかに豊かになったはずの現代の生活では得られない純粋な感動の体験がそこには存在していた。言葉を尽くしても表現できないものを体で理解した。今までの山行とはまた一味違った、素晴らしい経験であった。
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