日程:2月12~14日
山域:長野県 戸隠連峰
参加者:L筆者、ウノ、サカイ
西岳P1尾根の登攀を無事成功させた我々は、次なる対象である本院岳ダイレクト尾根へ向かったのであった。
ダイレクト尾根にはD1~D9の顕著なピークがあり、D7・8・9が核心とされている。
なお、信州大学に倣って、西岳の各ピークとの混同を避けるためにダイレクト尾根の各ピーク は「D~」と表記する。
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2/12
晴れ
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6:05
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ダイレクト尾根末端(二股)【行動開始】
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7:50
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参道ルンゼ取り付き
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8:20
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D1
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9:58
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D2?
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10:09
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D3?
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10:35
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D4
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11:30
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D5
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13:20
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D6【幕営】
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15:15
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D7FIX工作完了
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P1尾根の反省を活かし、ワカンをデポして出発。
ダイレクト尾根の末端から取り付き順調に高度を上げる。
取り付きからしばらく登ると白樺台地と呼ばれている白樺があまり生えていない台地へ出る。その先は徐々に勾配が増していき、参道ルンゼと呼ばれる実質的な登攀開始地点へ。
(白樺台地は白樺が少ない)
(参道ルンゼのある岩塊が見えてくる)
参道ルンゼ手前で登攀準備を整え、登攀開始。
斜度も30度くらいで雪が安定しており、ロープを出すほどでもない。
最後の乗越だけ65度ほどの少し悪い草付きだったが、問題なく突破しD1へ。
(参道ルンゼ)
D1から藪が濃い尾根を少し詰めるとD2直下の岩壁にでた。ここは二段クライマーのサカイさんが行く。ドラツーチックなクライミングで6、7mほどロープを伸ばしたあたりで動きが止まる。「手間取ってますね~。」というような感じでウノさんと話していると、サカイさんの手足が一瞬せわしなく動き、落下した。プロテクションは取っておらず、これはやばいかもと思ったが、幸い直下の雪が良く積もっていたのと、岩からきれいに飛び降りたのとで、全くの無傷だった。期せずして今流行りのDeep Snow Soloとなった。なぜか笑えてくる。
(落ちる前)
D2はおとなしくスタカットで巻くと、D4とD5のコルに出る。どうやらD3もまとめて巻いてしまったようだ。
D4はよくわからなかった。一緒に巻いたのか、知らない間に通過していたのか。
この辺は難なく突破といった感じであった。
(終日晴れ)
(D4とD5のコルへ詰めあがる)
少し雪稜を歩くと、D5手前に出た。私がリードで突破。普通の雪と草付きのMIX。
(D5手前)
(D5にて後続を待つ)
(この世の終わりのような様相を呈している斜面)
D5からウノさんリードで雪壁をトラバース。D6取り付きへ。
(D6手前)
D6は筆者がリード。
ここから悪名高い戸隠のキノコ雪が出現し始める。
バーティカル除雪は30分以上に及び、中々手ごたえがあった。
(D6のキノコ雪)
まだ時間はあったが、計画では1日目はD6まで来れれば良しと考えていたため、幕営することにする。テントを張るには雪稜の幅が狭かったが何とか整地。ギリギリテントが収まった。
D7にFIXロープだけ張って明日に備える。空身でサカイさんがリード。かなり手間取っている。傍目から見ても恐ろしい全身運動である。草付きとキノコ雪のMIXで、斜度は80度~というような感じ。もちろんラッセルもしなくてはならない。あまり使う気のなかったイボイノシシはここで使用した。プロテクションがしっかりとれるのがこのピッチの救いであった。2時間近くかかってやっとFIX工作が完了した。この作業を明日に回さなくて本当に良かった。
書籍やネット上の記録ではD7の言及はあまりなかった気がする。
もしこのD7以上の強度が本院岳まで続くなら結構やばいのでは…など思いつつ就寝。
(D7の登攀)
(高妻山がきれい)
(ヤニセッション)
(際どいテン場)
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2/13
曇り時々雪
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6:40
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D6【行動開始】
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7:50
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D7
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11:10
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D8
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12:20
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プラトー
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18:20
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D9【幕営】
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本日の行動はD7の登り返しから。筆者が一番始めに登る。やはり結構悪い。15㎏以上を背負って登るピッチではない。一回落ちた。
D7からはD8が威圧感をもって聳え立っていた。リッジ沿いに直登は厳しいと確信する。弱点を探していると、左にうまく巻けそうである。
リッジ沿いに10m、そこからD8岩壁基部へ30m懸垂して、D8を巻きにかかる。
(D8)
サカイさんリードで1ピッチ。ビレイ点がハンギング。
筆者リードで1ピッチでD8の裏に回る。オーバーヘッドラッセルとちょっと悪い草付き。
その後、ウノさんリードで1ピッチで尾根上に復帰。快適な草付きアイス。アックスがばっちり決まった。
(へつっていけば上手く巻けそう)
(サカイさんリード)
(D8の1ピッチ目はハンギングビレイ)
(ウーさんリードでルンゼ状を草付きアイス。)
尾根上に復帰したら、ちょっと歩いて1ピッチ懸垂。
ここには残地があり、ダイレクト尾根に入ってから初めて人跡を見た。
(懸垂)
(下りた先はこんな感じ)
サケさんリードで1ピッチ登ったらプラトーにでる。
プラトーは本当にプラトーって感じで、久しぶりに落ちない努力しなくてもいい場所に来れた安堵を感じた。
(この感じ、そろそろ慣れてきた)
(プラトー)
年上の二人が、「もう若くねーんだ…。」などと言い出し、プラトーで幕営したがり始める。色々と理屈をこねているが、時間的には次の幕営候補地まで行ける余裕はある上に天候も安定しているのでこれは進むべき場面であると筆者は感じた。二人の話をよくよく聞いてみると休みたいからという意思を理論武装しているだけであったので、進むことにする。
(怪しげな相談をしている二人。)
D9も正面突破は厳しいため右側から取り付く。
雪崩斜面を横切って取り付き。
筆者リードでちょっと凍ったルンゼを詰めあがり、次のピッチをウノさんがリード。
(ちょっと怖いトラバース)
(D9、1ピッチ目)
ウノさんのリードがいつまでたっても終わらない。ビレイしている筆者は寒くて寒くてたまらない。1時間以上経過している。
「サカイさんちょっと様子見てきてもらえませんか。」
横で同じく凍えているさかいさんに声をかける。
「…なんか両腕でアックス振り回してんな。」
どうやらキノコ雪にアックスのブレードだけで挑んでいるらしい。なぜスコップを使わないのか。結局ウノさんはロープを60m伸ばすのに1時間半かかった。後にウノさんは語る。「キノコ雪があんなにあるとは思わなかった。キノコ雪セクションに突っ込んだ時点で足場が極めて不安定だったうえにプロテクションもプアだったからスコップを出す暇がなかった。数本の笹を死に物狂いで掘り出して、それを嬉々として掴んでシャバシャバの不安定な雪に足を上げる、という作業の繰り返しで精神的・体力的に消費した。」
(D9、2ピッチ目を見上げる)
D9に抜けるためには最後に1ピッチこなす必要があった。サカイさんリードで抜ける。
ウノさんがフォローで続こうとする。しかし、どうにも手間取っている。前のピッチのリードで力を使い果たしたのだのなんだのと言っている。ひどくじたばたした末、ユマーリングを試み始める。無理だろと思いつつも見守る。やはり雪壁に顔面をめり込ませることになり、失敗。日が暮れた。
「すまん。」
結局ウノさんには空身で突破してもらい筆者が2往復してウノさんの分も荷揚げした。
。
(ユマーリングを試みるウノさん)
(2人分のマカルー)
そんなこんなで手間取り、幕営地に着いたのは18時過ぎ。
そこから整地して、テントに入ったのは19時過ぎてからになった。
(やっとテントに入れる)
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2/14
曇り後晴れ
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6:25
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D9【行動開始】
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10:52
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本院岳
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12:14
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西岳直下ルンゼ下降開始地点
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15:15
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P1尾根登山道
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17:10
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上楠川の橋【下山】
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朝一でキノコ雪を処理し、D9の稜線に復帰。山頂と思しきピークが見える。一同大喜び。
(朝一のキノコ雪)
稜線に復帰してからは再び気の抜けないセクションが連続する。
酒井さんリード。山頂直下の巨大な岩塔を巻きにかかる。岩頭の基部でピッチを切る。
(もう何ピッチ目だろう)
(かっこいいビレイ点)
次のピッチを宇野さんがリード。山頂直下の最後の登りの取り付きまで。
(がんばれ~)
筆者リード。最後のピッチになるかも、と浮足立つ。だが、激しいバーティカルオーバヘッドラッセルを強いられそれどころではなくなる。終始不安定な足場でスコップを振り回し、突破。60mロープを伸ばすのに1時間近くかかった。ひたすら体力勝負のピッチ。本当に最後まで気が抜けない。
(なかなか手ごわい)
ピークまだかよ、と全員思いつつ、半ば作業的に酒井さんがリードでロープを伸ばす。フォローで終了点に到着すると、その先には空が広がっていた。最後にノーザイルで30mほど登るとそこは…。
(およよ)
ピークだ!!!
(うひょー!)
ひとしきり喜んで写真を撮った後、下降開始。だが、この下降で怖い思いをした。
稜線沿いに下降するよりも移動距離が短く済むということで途中から谷を下る選択をした。雪が安定していたためこのルートを選択したのだが、想定外だったのは岩壁の近くには2~mの垂直な落とし穴(シュルンド)が点在していたことである。雪で覆われており一見わからないのが恐ろしい。そもそも雪が安定していても数mの積雪で40度~50度の谷状地形を下降するのは単純に怖い。雪崩ない保証など何もないのだ。
筆者も一回落とし穴に落ちた。自力で脱出できたが、生きた心地がしなかった。
(怖ろしい下降)
(あわわ)
心が折れたので、P3尾根は行かないことにした。
他の2人は元々行くつもりは無かったらしく、当然じゃん。疲れたし温泉行こうぜ。というような感じであった。
そして、温泉に行った。
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たくさんの課題と収穫を得た。
お腹いっぱいである。
P1尾根の不満は完全に解消された。
力を出し切った良い山行であった。