1/16 大田原
1/17 在自山
仲間の獲物を解体をしながら、自分の中で命が陳腐化していくのを自己観察していた。
大型哺乳類として生命体だったもの、というよりは、物体として認識していた。
他人事だった。
クライミングシューズで氷柱を登ろうとしているような、全く見当違いのアプローチをしている気がしてならない。
こんなんじゃだめだ。
1/16 大田原
1/17 在自山
仲間の獲物を解体をしながら、自分の中で命が陳腐化していくのを自己観察していた。
大型哺乳類として生命体だったもの、というよりは、物体として認識していた。
他人事だった。
クライミングシューズで氷柱を登ろうとしているような、全く見当違いのアプローチをしている気がしてならない。
こんなんじゃだめだ。
幸せな夢を見る。
それは初恋の女の子と青空の下お花畑でじゃれあうような夢。
背中の違和感と足元に寒さを感じ、糸が切れるように、花びらが落ちるように、アブラゼミが鳴き止むように、目が覚めた。
シュラフやウェアは概してヌメヌメに濡れており、シュラフカバーはゴチゴチに凍っている。安いエアマットの寝心地と断熱性はあまり良くなく、慢性的に冷たい。
目の前には月に照らされて少しだけ透けているテントの黄色い膜状の天井。
風は強く吹いており、外張りだけでなくテントそのものも激しく揺さぶる。
ああ、そうだ、ここは黒部だった。
感じるのは、黒くて重たい絶望を孕んだ不安というよりは、諦観。
どうやってもこうやってしか生きれないんだよなあ、という自分自身への呆れ。
どうなっちゃうんだ、これ
電波は入らないので、数日前の予報を頼りに行動するしかない状況であり、その予報はかなり悪い。
ラジオはビビらせることしか言わない。
悪天が少しでも緩んだ場合のチャンスを掴むために、起きては外を偵察して、また諦めてテントに戻ってを繰り返す。
あーあ、帰省してる妹ちゃんと一緒に寝正月の選択肢もあったのになあ
全ボッカでほぼ全日行動し、入山日数が2桁近くなるとお腹は常に減っている。そういえば、寝床に入る前にラジオで今年は寒ブリが豊漁だのと言っていた。
頭カユイし寒ブリ食いてえ
雪は降り続く。そして、テント脇にたまってゆき2時間もすれば明確にテント内の居住空間を圧迫してくる。
次の除雪当番俺だっけ?
除雪は死ぬほど面倒くさい。
寝ぼけ眼をこすりつつ外へ出る準備をしてテントから首を出すと容赦ない風雪が何の脈絡もなく唐突に顔面を打ちつけてくる。
さっきまでシュラフの中で唯一絶対の安寧にあずかっていたのに、である。
それはもはやダルビッシュ有に冷たい砂を顔面に向けて絶えず投げつけられているのと同じ状態と言え、暴力的と言わざるを得ない。
除雪の度に思う。
人間の理性ってすげぇな、と。
石橋を叩いて渡る奴が笑われるなら、大陸を叩いて移動するやつは笑われるだろうか。
今日までと同じように明日からも頑張れるだろうか。
思考を止めたい。
ぐっすり眠りたい。
幸せだった夢の世界に戻って彷徨っていたい。
しかし、不満ではない。
充満しているからだ。
心から思う。
宇宙の中の、今、ここ、ど真ん中。
選択の果ての、充満する不満のなかに仄かに灯る、そこにしか宿らない神秘があることを。
それは決して言葉に表すことは出来ないし、触れることは永遠にかなわないが、感じる。
それを感じてしまう限り、惹かれ続けるのだろう。
さて、明日も早い。
目を閉じて、意識を思考を沈降させ、川辺に笹舟をそっと浮かべるように、あの歌を脳内に流す。
芦田愛菜『ステキな日曜日〜Gyu Gyu グッデイ!〜』(2011)
屏風尾根でのネバーエンディング空荷ラッセル、赤沢岳稜線での暴風、赤沢岳北西尾根でのルーファイミスからの登り返し、黒部別山南尾根2段岩峰のひたすら続く悪い登攀と過酷な荷上げ、真砂岳真砂尾根での雪崩に怯えながらの登高、そして、今
苦しみは苦しみのまま苦しみとして享受したい。
でも時にその考えに縛られて自由でなくなることがある。
そんな時、この歌は与えてくれる。
圧倒的な希望の奔流を。
絶対的な赦しを。
俺は何も考えずただそれに身を委ねれば良い。
聴き終える頃には、思わず、笑っちまう。
2020/12/26-2021/1/7
ワダ、シオガイ、スミ
扇沢〜赤沢岳屏風尾根〜赤沢岳北西尾根〜黒部別山南尾根〜真砂岳真砂尾根〜真砂岳大走〜立山駅
12/26
『入山』
扇沢〜赤沢岳屏風尾根2206m付近
雪
12/28
『初めまして。良かったら郵便番号を教えてもらえませんか?』
黒部川のほとり〜黒部別山南尾根P7付近(1700m付近?)
曇りときどき晴れ
12/30
『南尾根は、終わらねェ!!』
黒部別山南尾根P5付近〜黒部別山南尾根P2-P1のコル
吹雪
12/31
『南尾根のオワリ』
黒部別山南尾根P2-P1のコル〜ハシゴ谷乗越
吹雪
1/1
『停滞』
ハシゴ谷乗越
吹雪
一度は出発を試みるも、外に出て実感する、流石にこれはねーわ感。
風雪ともにかなり強く、視界もない。
入山してから休みなく毎日フル稼働していたこともあり、停滞をキメる。
1/2
『ラッセルゾンビ再誕』
ハシゴ谷乗越〜真砂岳真砂尾根2400m付近
吹雪
1/4
『白い闇』
内蔵助山荘
吹雪
1/5
『吹雪決行』
内蔵助山荘〜天狗平
吹雪